初夏の香りが漂い始めると、どうしても彼のことを思い出してしまう。それはたぶん、シャツが汗ばみだす季節に彼は生まれ、そして死んだのだという意識がぼくにあるからだろう。
映画『GABO〜ガルシア=マルケスの生涯〜』(2015、スペイン)を青山学院アスタジオで観てきた。会場で配られた抽選券の裏面には『生きて、語り伝える』の一節がプリントされていて、素敵だ。生地アラカタカに始まり、『予告された殺人の記録』の舞台ともなったスクレ、学生生活を過ごしたボゴタ、『大佐に手紙は来ない』のような極貧生活を送ったパリ、『プレンサ・ラティーナ』の記者として赴いたニューヨーク、『百年の孤独』の語りを思いついたというメキシコシティ、後の「プニェタソ」事件で袂を分かつこととなるバルガス=リョサと親交を深めたバルセロナと、ガボの移動の足跡を作家フアン・ガブリエル・バスケスが辿ったドキュメンタリー風の映画だ。それと平行する形で、ガボをよく知るひとたちによる証言と作品の朗読がインサートされている。彼との思い出を語るのは、弟のハイメ、妹アイーダのほか、ガボの伝記の作者ジェラルド・マ—ティンや盟友プリニオ・アプレーヨ・メンドーサ、エージェントとして〈ブーム〉の作家を支えたカルメン・バルセルス、元アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンなどだ。若い頃ガルシア=マルケスと半同棲生活を送っていたという女優タチ・キンタナの回想などは貴重だと思うし、ガボが当時大統領だったクリントンにキューバへの経済封鎖解除を進言していたという事実はあまり知られていないのではないだろうか。小説家としてだけでなく、ガブリエル・ガルシア=マルケスの記者としての側面を強調し、それをパブロ・エスコバール時代のコロンビア麻薬戦争問題を主題とする作品『誘拐の知らせ』に繋げる流れもよかった。
しかしなんといってもこの映画の見どころは、ガボのユーモアあふれる発言と彼にまつわる逸話だろう。枚挙にいとまがないので詳述は控えるが、全編にわたって冴え渡る「ガボ」節は、なんだか観ていてとても心地好かった。
しかしなんといってもこの映画の見どころは、ガボのユーモアあふれる発言と彼にまつわる逸話だろう。枚挙にいとまがないので詳述は控えるが、全編にわたって冴え渡る「ガボ」節は、なんだか観ていてとても心地好かった。